宇都宮地方裁判所足利支部 昭和45年(ワ)136号 決定 1971年2月19日
原告 日本煙草苗育布製造株式会社
右代表者代表取締役 安藤仁三郎
右訴訟代理人弁護士 戸恒庫三
被告 東京山一産業株式会社
右代表者代表取締役 湯浅安雄
右訴訟代理人弁護士 田山勝久
主文
本件を東京地方裁判所に移送する。
理由
第一 被告は、主文同旨の決定を求めるむね申し立てた。その理由とするところは、別紙被告提出の「管轄違に基く移送の申立」と題する書面および昭和四六年二月一八日付準備書面記載のとおりである。
本件移送の申立の理由に対する原告の主張は、別紙原告提出の「釈明書」と題する書面記載のとおりである。
第二 当裁判所の判断
本訴は、「原告は、被告振出の金額七〇万円、満期昭和四一年二月一一日、支払地振出地東京都中央区、支払場所株式会社第一銀行馬喰町支店、振出日昭和四〇年九月二七日、受取人兼裏書人埼北紡毛株式会社なる約束手形一通の所持人であり、右手形は原告の右訴外会社に対する紡毛の原材料たるスフメンの販売代金として、同訴外会社から受領したものであるところ、時効により、振出人、裏書人両者に対する手形上の権利が消滅し、かつ原告の同訴外会社に対するスフメン販売代金債権も時効により消滅した。そして、被告は、同訴外会社に対する工賃支払のため、右手形を振り出したものであるから、結局手形金と同額の利得を得たものである。よって、原告は、被告に対し、利得償還請求として、金七〇万円およびこれに対する昭和四六年一月一四日(訴状送達の日の翌日)から完済に至るまで商法所定の年六分の遅延損害金の支払を求める。」というにある。
右利得償還請求権は、民事訴訟法第五条にいわゆる財産権上の訴に当ることは明らかであるところ、その履行場所については、手形上の権利でないから、手形上の支払地や支払場所の記載によることはできず、また債務者において、手形上の権利消滅当時何人が手形所持人か、したがって、何人が利得償還請求権者であるかを知り得ないから、結局取立債務として、債務者の営業所または住所と解すべきである。それゆえ、本件は、被告の営業所が義務履行地であるというべく、民事訴訟法第五条により、被告の営業所所在地を管轄する東京地方裁判所の管轄に属するものである(同法第一条、第四条によっても、同裁判所の管轄に属することは、いうまでもない。)。
原告は、本件利得償還請求権の前提となった前記手形は、原告の佐野支店(佐野市堀米町一、二三六番地所在。登記済み。)において、受取人たる前記埼北紡毛株式会社から、紡毛の原材料たるスフメンの販売代金として受領したものであるから、商法第五一六条第三項にいう支店においてなした取引にあたり、したがって、この手形を前提とする本件利得償還請求権についても、同支店が営業所とみなされるから、同支店が履行場所であるというべく、この点から同支店所在地を管轄する当庁に管轄権があると主張する。
商法第五一六条第三項は、「支店においてなした取引については、その支店をもって営業所とみなす。」と規定するが、これはその支店を債務の履行場所とする趣旨であるところ、かく定めることが通常の場合取引の便宜に則し、かつ当事者の意思によく合致するからである。したがって、支店の取引であるかどうかは、当該取引が単に支店の業務としてなされたというだけでなく、その取引の当事者、取引の内容等に照らして決定するを相当とするところ、本件において、原告が前示約束手形を取得したのは、訴外埼北紡毛株式会社からであって、被告からではなく、かかる場合、右訴外会社との関係では、支店での取引といい得るとしても、被告との関係では同様に論じられない。けだし、右事実関係においては、原告と被告は、手形上も、その原因関係上でも、何ら直接の取引関係に立つものではないのみならず、元来利得償還請求権成立時において、被告はその権利者が何人かを知り得ないのであって、かかる場合にも、これを支店の取引とみなして、履行場所を定める合理的根拠は見出しがたいからである。してみると、本件を被告との関係において、佐野支店の取引というを得ないから、同支店を履行場所とすることはできない。
そして、本件については、その他如何なる点からするも、当裁判所に管轄権があるとは認められないので、民事訴訟法第三〇条により、管轄裁判所たる東京地方裁判所に移送すべきものとする。
よって主文のとおり決定する。
(裁判官 菅本宣太郎)
<以下省略>